はじめに
もう何年も、ゴールデンウィークには北海道を走っている。
どこを回ろうか、どのフェリーにするか。そんな計画を立てるのは、もはや春の恒例行事だ。
そんな中、写真の整理をしていてふと目に止まったのが、2021年の一枚。
あのときは、ただ羊蹄山の近くを通っただけ。立ち寄るつもりはなかったけれど、思わずシャッターを切った。
それを見て思った。「今度は、ちゃんと羊蹄山を見たい」。
そして、2025年の春。
羊蹄山を軸にルートを引き、休憩ポイントと泊地を決めて、あとは行くだけ──だった。
けれど、フェリーが欠航してしまった。
走れなかった。でも、完全に諦めたわけでもない。
予定していたルート、見たかった風景、食べたかったもの。
地図と記憶と想像をたどって、妄想で一周してみることにした。
計画という妄想の地図
2025年のGWに計画していた北海道ツーリングは、6日間の旅程だった。
その中でも、羊蹄山を一周するこの日は、全行程の中で間違いなくハイライトだった。
宿泊拠点は、ニセコノーザンリゾート・アンヌプリ。
そこから時計回りに羊蹄山の外周をまわりながら、距離と時間をうまく調整して一日を組んだ。
目的ははっきりしていた──「遠くから羊蹄山を眺めること」と「麓から見上げること」。
違う角度から、違う距離感で、羊蹄山をできるだけ多く視界に入れていたかった。
それに、桜も期待していた。
ニセコのGWは、桜が「これから咲くかもしれない」という時期。
ほんの一部でも花が見られれば、羊蹄山を背景にした最高の一枚が撮れるかもしれない──そんなことを思いながらルートを引いた。
以下は、当時組んでいた旅程表。
ただのスケジュールではなく、「あそこに行って、こう眺めて、こんなものを食べたい」という気持ちも、ちゃんと詰め込んでいた。

ストリートビューで羊蹄山を走る
妄想ツーリングといっても、ただ地図を見るだけじゃない。
今の時代には、Googleストリートビューがある。
画面越しに進んでいくと、空気や音は届かなくても、道の形と空の広さは感じられる。
実際、今回の旅程表を組むときにも、気になった場所をいくつもストリートビューで確認していた。
たとえば、真狩フラワーセンターから羊蹄山を望むあの構図。
2021年に撮った写真とほぼ同じアングルが、今も画面の中で待っている。

他にも、望羊の丘から白く輝く羊蹄山を背負う一本桜、
鳥居を額物に絵になる山の形、
ニセコ大橋からまっすぐ望む雪の残る斜面。
それらを確認するたび、「ここで止まって、バイクを写真に入れて撮るだろうな」と、自然に思えてくる。
この段階でもう、心は半分くらい現地にいた。
妄想ツーリングの地図はこちら
下のマップは、今回の「羊蹄山一周 妄想ツーリング」で実際に組んでいたルートと立ち寄りポイントをまとめたものです。
ビュースポットや食事予定地など、特に気になると箇所へは一言メモを添えています。
※地図の拡大・縮小やスポット名の確認も可能です。
幻のピザと風景の記憶
旅の途中で何を食べるかは、ルートの中でもけっこう大きな位置を占めている。
特に今回は、道の駅230ルスツにある「天然酵母熟成ルスツ ピザドゥ」でピザを食べるのを楽しみにしていた。
この店は、Googleマップを眺めていて見つけた。
「道の駅で本格ピザが食べられる」と評判で、焼き上がりを待つ間に外で羊蹄山を眺められるらしい。
そんな風景と一緒に、ゆっくり昼を過ごすのはきっと最高だろうと思っていた。
ところが、最近その店がGoogleマップ上で閉業になっていた。
まだマップ上に名前も口コミも残っているし、食べログでは掲載保留扱いだけど、どうやら行けても実際に食べることは叶わなかったかもしれない。
営業していた当時の口コミを見て、「この味を想像だけで補うのか……」と思うと、なんだか不思議な感覚になった。
でも、それでも行ってみたかった。
味だけじゃなく、「そこに立ち寄って、外でピザを食べる時間」そのものが旅の記憶になっていく。
実際に食べられなかったとしても、あの場所に停めたバイクと、ピザの焼ける匂いを想像して、ちょっと笑ってしまった。
食べ物の記憶って、風景と結びついて強く残る。
この旅では、そういう「幻の時間」がいくつもあった。
妄想だけど、ちゃんと走った気がした
結局、フェリーは出発二日前に欠航して、北海道には渡れなかった。
羊蹄山を一周するルートも、ピザドゥの昼ごはんも、望羊の丘での一枚も、全部行けなかった。
…けど、完全に「行ってない」とも言い切れない。
写真を見返しながら、Googleマップとストリートビューを行ったり来たりして、
道をなぞって、風景を確かめて、ルートにピンを立てて。
そんな時間を過ごしているうちに、頭の中ではもう何度もその道を走っていた。
この旅は、妄想だけど空っぽじゃない。
走ってないけど、走った記憶がある。
バイクに乗るって、エンジンの音や風を感じることだけじゃない。
どこへ行こうかと悩んで、ルートを引いて、行けるかどうかに一喜一憂する。
そのすべてが「乗っている時間」だとしたら、この旅もまた一つの“ツーリング”だったと思っている。
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